昭和三四年の伊勢湾台風以降、日本において死者が一、○○○人以上になるような気象災害は起こっていない。これは、組織的な防災対策と防災施設の整備が進んだことが大きな要因ではある。同時に、強い台風の日本への上陸が少なかったなどの、この期間の気象状況も関係していると考えられる。ひとたび人口や施設が集中している都市部に非常に強い台風が来襲すれば、それにより発生する被害と、経済的損失の大きさは計り知れない。巨大災害が起こる潜在的な可能性は、依然としてあると言って過言ではない。
二 気象災書の実例−台風による被害−
防災対策を立てるうえでは、過去に起こった災害について知ることが非常に重要である。ここでは、日本の気象災害の中で大きなウェイトを占める台風災害について、実例をあげてその特徴を示す。
(一)台風とは
台風は、熱帯地方の北西太平洋上に発生する熱帯低気圧のうち、中心付近の最大風速が毎秒約一七m以上のものをいう。台風は、いわば熱のエネルギーを運動のエネルギーに変える巨大な渦巻きであり、夏から秋にかけて日本付近に北上してくることが多い。台風が強い勢力を維持して接近・上陸すると、暴風や大雨により、風害・水害・高潮害・波浪害・塩害など、様々な災害をもたらす。
昭和年間に日本を襲った台風のうち、死者・行方不明三、○○○人以上の台風と、平成元年以降で死者・行方不明三〇人以上となった台風を第2表に掲載する。
(二)実例(平成三年台風第一九号)
広島県宮島の厳島神社で大きな被害がでたこと、リンゴの産地で果実落下の被害が非常に多かったことなど思い出す人も多いであろう、平成三年台風第一九号は、九月二七日、非常に強い台風として長崎県に上陸し、日本海で加速して北海道に再上陸した。経路図と気象衛星「ひまわり」画像を第1、2図に示す。
[気象と被害状況]
この台風のもたらした降水は、台風の動きが早かったせいもあり、上陸台風としてはそれほど多くなかった。しかし、この台風は極めて広い範囲で暴風による被害をもたらし、
第2表 日本に大きな被害を与えた台風

第1図 平成3年台風第19号の経路と25日午前9時に発表した進路予報 〇印は午前9時の位置を示す。

第2図 気象衛星「ひまわり」可視画像 平成3年9月27日12時 台風第19号が九州西方海上に進み、中心付近の雨雲が九州地方を覆った。

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